暮らしのある空間 であるということ
しばしば、デザイナーや建築家に任せた家は住みにくい、暮らしにくいのではないかという印象を持たれているお客様に出会います。
でも、ほんとうは使いやすさ、住みやすさから発想するのがデザインであろうと思います。
デザインはアートではありません。アーティストは、もっぱら(彼の)才能や感性のおもむくままに造形しますが、デザイナーは、人々のライフスタイル、家族構成、耐久性、あるいは熱効率のよさ、コストなどの情報を集積し、その都度、その都度、最適を選び出して、住まいのかたちを見いだす、いわば編集者のような役割を負っています。
住まいは、アーティストによる作品なのか、それとも品格のある道具なのか…
神崎は、あくまでも自らのアートを主張しようとするのではなく、善きデザイナーであろうとする人の家づくりに貢献できる「造り手」であること、自身もまた、善きデザイナーであることを目指して、仕事をさせていただいております。
例えば、桂離宮がそうであるように、かつての日本建築はモダン・デザインの傑作のようにシンプルで、しかも美しい。よけいなものを取り去って、機能に徹することからも「美しい」を見いだすことはできる…私たちは、そう信じています。
そして、何よりも、形としての建築物であるより、人々の暮らす「家」であること。「ただいま」と「お帰りなさい」が心地よく、毎日、エコーする「家庭」であること。
そんな「家づくり」を目指しながら、私どもは、きょうも、どこかの現場で、素材と対話しながら、仕事をさせていただいております。
調和するモダン
いかに手の温もりを伝えるかということ
日産ティアナのテレビCMでヤコブセンの名前が聞かれたのは一昨年(2006年)のことです。「モダンリビングという新しい豊かさ」をキャッチ・コピーにしたティアナのCMには、いくつかのパターンがありましたが、映像の背景には、ヤコブセン以外にも、エンリケ・M・カルバンがデザインした「CASA CARMEN」、Morphosis(=モーフォシス)という建築デザイン・グループが設計した「Cal Trans Building」など、モダン・デザインを代表する作品群が登場していました。
一方、吉永小百合さんが出演されているシャープ「AQUOS」のCM「名建築篇」シリーズ(印象派絵画の巨匠たちをとりあげた「名画篇」に先行して制作された)でも、フランク・ロイド・ライトなど、20世紀の先駆者から、現在に活躍する隅研吾さんなど、やはり、シンプルなモダン・デザインの系譜に連なる建物(特に住宅)が、大きく取り上げられました。
こうしたことに象徴されるように、近年はモダン・デザイン・ブームといっていいほどの注目が集まっていますし、実際の生活の中にモダン・デザインをとりいれようとする方も増えてきました。
モダン・デザインは、シンプルであることを追求してきましたが、それは20世紀が、工業生産に拠る大量生産の時代だったからです。しかし、シンプルであるが故に、単調であるとか、没個性な仕上がりになるとか、あるいは人間的なあたたかみに欠けるとか…そうした問題と闘ってきたというのも、モダン・デザインの歴史です。
地球環境のことを考えれば、シンプルであることは、これからもデザイン潮流のメイン・ストリームであり続けるのだろうと考えます。恐らく、一過性のブームで終ることはないのだと思います。
「機能しかないのに美しい」
過度な装飾が無く、機能性に富んでいるのに、なぜか美しい…これは、かのバウハウスでも重要なテーマとされたことですが、こうしたことに加えて、人間的な温もりをシンプルさの中に共存させることが、これからのモダン・デザインに与えられた課題です。
神崎は、すべてを量産品に依存する建築という考え方からいったん距離を置き、手業(てわざ)であるところの技能を見つめ直し、そこから、コスト、耐久性、あるいは耐震性などを実現する、これからのモダン・デザイン、あたたかいモダン・デザインを見つけ出そうと、努力を続けています。
自然との共生
人にも、自然にもやさしい「家」を目指す
フランク・ロイド・ライトが設計した「カウフマン邸」、別名「落水荘」が竣工したのが1939年、昭和14年のことです。
このカウフマン邸は、天然の滝の上に突き出すようなかたちで建てられています。しかし、それのみならず、その場にあった天然の岩盤の一部が室内装飾にとりいれられているなど、理論上のことではなく、実際に「周囲の環境と一体になること」を実現した建物でもあります。
このように、モダン・デザインによる住宅は、その初期の段階から、自然との共生を重要なテーマとして掲げてきました。
カウフマン邸の竣工時、すでに欧州は戦争状態にあり、その翌々年には、わが国とアメリカ合衆国も戦争状態に入ります。
その後、戦後の復興から高度成長期へと時代は移り変わり、モダン・デザインは工業化の流れの中で、効率性を追求する方向へと進化していきました。
しかし、80年代から90年代にかけて、工業一辺倒だった時代への反省の機運が持ち上がり、モダン・デザインは再び、自然との調和を目指すようになります。
沖縄県名護市役所を設計した「象設計集団」は、沖縄という気候風土の中で、エアコンに頼らず、風の流通によって涼味を得ようとする試みをしました。1981年のことです。
階高を大きく確保し、天井裏に放熱、通風のためのスペースを設ける。各階に広いテラスを設けて、そこに天井をかける。木陰効果を最大限に生かすために、緑を計画的に配置する…屋上も緑化する…
「クーラーのいらない庁舎」という当初の目的のすべてが達成されたわけではないようですが、オーガニックな建物のお手本として、今も高い評価を受けています。
モダン・デザインはシンプルを旨とします。そして、本来、モダン・デザインは、そのことによって、自然環境にとっても「生成り」のデザインを目指したということもできます。
自然と調和しながら生きる。
そう考えた方が、人にとっても、自然にとってもやさしい「家づくり」ができるはずです。
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