さりげなく唄うような家
ル・コルビジェの代表作のひとつ「小さな家」は、レマン湖のほとりにあります。
1923年に設計されたこの家は白い長方形の家。日本流にいえば18坪程度の土地に建てられた、文字通り小さな家ですが、今もモダン・デザインの傑作として、多くのデザイナーが絶賛し、垂涎の的となっている住宅です。
コンパクトという居心地
The glass wall creates "Composure and sense of relief".
コルビジェの「小さな家」では、キッチンや洗面所、バスルームなど生活に必要な機能を、その機能を結晶化するように最小限に切り詰め、機能と機能をつなぐ部分(日本流にいえば廊下にあたる部分)を無くしながら連続させることで、広いユーティリティを確保しています。
このことは、一見、住宅からゆとりを奪っていくような作業に見えますが、実は、窓の大きさ、配置などを工夫することで、驚くほど、その心配は解消されることでもあります。
コルビジェの「小さな家」では、18mの壁面に11mの窓が取り付けられ、そこからはレマン湖の美しい景観が眺められるようになっています。
さすがに、日本の都市空間では遠景を臨む条件を整えることは難しいことかもしれませんが、青空や緑を借景する条件は見つけることはできるかもしれません。
幸い、この「Mr.&Mrs.W's house」の場合、正面が、旧くから電電公社(現NTT東日本)によって、迎賓館的に使用されてきた建物と緑が広がる空間です。1階部については、防犯上の安心も考慮し、ある程度の遮蔽性を確保した上で、2階部に、ガラスの壁とでもいうべき、大きな開放部(窓)を設けることができました。
「Mr.&Mrs.W's house」では、玄関から階段を直線的に配置し、その左右に各機能を振り分ける形を基本にしています。さらに、直角三角形のような変則的な形を活かす形で、頂点側にコンパクトなことが有効性を発揮する機能を配置し、底辺側に、ゆとりを必要とする機能を配置しています。
左右が対称になっているシンメトリーなデザインは重厚感やディグニティーを演出することはできますが、同時に親しみやすさからは、その住宅を遠ざけてしまう懸念もあります。
こうした懸念を、もともと難しい条件のひとつであった「変則的な形の土地」を活かす形で実現することで、個性的でありながらも、過度に主張しない「さりげなく唄うような」住宅として実現することができたのではないかと考えています。
コルビジェは、モジュールという独自の「人間のプロトタイプ」をつくり、そのサイズを基準に設計をおこしていきますが、そのコルビジェが究極のコンパクト空間として導きだした部屋の空間は、日本の茶室の基準のひとつである「三畳台目」や「四畳半」という形にきわめて近いものです。
これは、私どもの私見ですが、やはり欧州発祥のモダン・デザインと、日本が育て、熟成してきた数寄屋の発想とは、どこかで繋がっているような気がします。
近年「和モダン」と称して、日本風の意匠と、西洋の住宅デザインを折衷させようという考え方がブームのようになっていますが、私どもは、ことさらに「和のモダン」と構える必要はなく、もともと両者は自然に混ざり合うもの、両立するものだと思っています。
また、そうしてニュートラルな姿勢で設計に臨んだほうが、親しみやすく、住み心地もよい、そして、シンプルで美しい住宅を発想することができるのではないかと考えています。
モダン・デザインと大工仕事
特に本格木造住宅の場合、伝統的な工法に精通した熟練の技能職の存在が欠かせません。この「Mr.&Mrs.W's house」の場合、主材となった秋田杉に精通した現地の大工さんを招聘するたかちで工事にあたりましたが、お客様の中には、そうした熟練の技能職たちが、新しいモダン・デザインの住宅を理解できるのかという懸念を抱かれる方もいらっしゃいます。
しかし、欧米の手法と日本の手法の間に思うような障壁はありません。明治時代に建設され、今も傑作とされる洋館建築も、みな日本の大工がつくったものです。
参照 CONCEPT page2
欧州発祥のモダン・デザインに精通する一方で、和の伝統に通じる。そうしたことから、デザインと大工仕事の間に立って、丹念に翻訳作業を行う。
こうしたことが、スムーズにいけば、モダン・デザインと、和の大工仕事は、必ず、きれいな音で共鳴し、より豊かで、あたたかい住宅を実現します。

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